※反転お願いします

親友が死んだ日、彼女は泣いていた。

葬式の後、彼女は立つ事もままならず僕にしがみ付いて言った。
「どうして世の中には悲しいことばかりなの?」

その日もテレビは朝から晩まで物騒なニュースを流し続けていた。
どこかの国で紛争があったらしい。
多くの人が死んだらしい。

雨が多くなるこの時期、比例するように彼女の泣き顔も増えた。
笑顔を見ることが少なくなった。
彼女は不安定なままだったけど、僕は決意した。
「これから忙しくなるから一週間は絶対会えない」
縋る様に僕を見る彼女はやっぱり泣きそうだった。
放って置いたらどこかに消えてしまいそうな位危うかった。
「でも、必ず君を幸せにしてあげるから一週間待ってて」

その日もテレビは凄惨なニュースを流し続けていた。
どこかの国でテロがあったらしい。
多くの人が死んだらしい。

一日目。
どこかの一家が殺害されたらしい。
犯人は捕まっていない。
彼女に電話をかけたら、相変わらず暗く、半分泣いていた。

二日目。
どこかの町で通り魔が出たらしい。
昨日よりも大きい事件。連日流れる残酷なニュース。
彼女は電話越しに泣きそうな声で僕を呼んだ。

三日目。
どこかでバスがジャックされたらしい。
犯人はバスを無理矢理目的地へ向かわせた後、運転手と乗客を殺して逃亡。
今日の彼女は比較的落ち着いている様だった。

四日目。
どこかの飛行機がジャックされたらしい。
犯人は機内一人残らず殺害し逃亡。昨日のバスジャック犯と同じではないかと言われている。
彼女は普通だ。テレビを見なくなったのだろうか?

五日目。
どこかのビルに毒ガスが撒かれたらしい。
報道される事件は規模も被害も大きくなっていく。
恐らくそれを知らないのであろう彼女は少し明るい。何かいいことでもあったのだろうか。

六日目。
どこかの都市で大規模な爆発があったらしい。
連日の事件は全て犯人が捕まっておらず、同一犯とも言われている。
彼女は更に明るい。何かあったのか訊くと、「ただ楽しみなだけ」と言われた。

七日目。

その日、彼女と再会した。

今日の仕事が終われば彼女に打ち明けることが出来る。
そう思っていた僕は、予定よりも早い再会に思考が停止しかけた。
何故彼女がここに居るのか、と。

僕は一連の事件の犯人を追っていたはずだった。
なのに、目の前に現れたのは僕の大切な彼女だった。
「何故?」
僕は彼女に問う。
「本当はあの日、死のうと思ってたの」
彼女は答える。
「貴方が幸せにしてくれるって言うから、生きようと思ったわ」
微笑んで答える。
「でも悲しいニュースは嫌なの。私たち以外が居なくなれば、もうそんな物聞かなくて済むでしょう?」
同僚に向けられた銃を見て、思わず撃った。彼女は躊躇せずに引き金を引いただろうから。
僕の後先考えない行動に皆ざわめいたけど、正当防衛と言う形になった。

「ああ、これでもう、悲しいニュースを聞かなくていいのね」
手遅れだったんだ。彼女はとっくに壊れていた。
「最高の誕生日プレゼントだわ」
僕の弾は致命傷だった。

彼女は幸せそうな顔で目を閉じる――

彼女が死んだあの日、彼女は笑っていた。
彼女が死んだあの日、僕は泣いていた。
沢山の人が死んだあの日、彼女は笑っていた。

八日目。
どこかの動物園で赤ちゃんが生まれたらしい。
一連の事件も幕を閉じ、今日のニュースは平和だった。

空はこの時期には珍しく快晴。
僕は昨日彼女に渡すはずだった指輪を海に投げた。